HSPと愛犬 ― レオンとの出会いが教えてくれた敏感さと幸福感

はじめに
動物との暮らしは、喜びや癒しを与えてくれる一方で、別れの悲しみやお世話の大変さも伴います。特にHSP(繊細な人)の気質を持つ私にとっては、その喜びや痛みを強く深く感じ取ってしまいます。HSPは「感情の処理が深い(Depth of Processing)」傾向があり、日常の出来事をただの体験ではなく「心に残る物語」として受け取りやすいのです。
過去にフレンチブルドッグとダックスを飼っていた私は、彼らとの別れをあまりにも深く体験し、それ以降しばらく動物を迎えることを避けていました。しかし数年後、ある出会いが再び私の心を動かしました。ペットショップで出会った一匹のダックス――それが今の愛犬レオンです。

運命の出会い ― ペットショップでの瞬間
小さな体で無邪気にこちらを見上げるそのダックスは、ゴールド色の毛並みをしていました。しかしよく見ると足が少し変形していたのです。後から獣医さんに聞いたところ、生後6か月以上で運動もほとんどさせてもらえなかったことが原因でした。
HSPの私は、ペットショップで親から離され狭いケージで過ごす動物たちの姿に強い違和感を覚えます。虐待のように感じられ、もしこの子が誰にも飼われることなく大人になったら、その後の扱いはどうなってしまうのだろう?ブリーダーに返され、最低限の餌しか与えられずに過ごすのかもしれない。あるいはもっと過酷な未来が待っているのかもしれない――そんな想像が次々と頭に浮かび、胸が締め付けられました。
抱っこ商法と心理学的メカニズム
ペットショップでよく使われる「抱っこ商法」には、心理学的な仕組みがあります。
飼っているイメージの具体化(シミュレーション)
抱っこをすると、まるで自分のペットのように感じる一時的な体験が生まれます。そのシミュレーションが「飼った時の喜び」や「一緒にいる幸福感」と結びつきます。HSPの場合、感情の体験をより深く処理するため、この効果は一層強く働きます。
心理的所有感(所有の錯覚)
抱っこしている間、「自分のものだ」と感じる心理が芽生えます。これは心理学で「保有効果」と呼ばれ、人は一度自分のものと感じた対象を手放すことに強い抵抗を覚えます。「この子を手放したくない」「連れて帰りたい」という衝動につながります。
情動的な結びつき(感情移入)
子犬の温かさ、匂い、柔らかさなど五感への刺激は、瞬時に強い愛着を生みます。理性より感情が優先されやすく、HSPの繊細な感受性はこの情動的な結びつきをより深く感じやすいのです。
そのメカニズムが分かった上で、私は抱っこする前から直感的に「この子を家族に迎えよう」と決めていました。
レオンとの生活 ― 小さな痛みと愛らしさ
レオンには噛み癖があります。撫でられて興奮すると、目をキラキラさせながら楽しそうに噛んでくるのです。この瞬間、痛みを敏感に感じますが、同時に愛らしさも感じます。叱っているけれど可愛いと感じる――なんとも複雑な体験です。
レオンとの日常は、小さな痛みも含め、生活に幸福感を運んでくれます。

HSPだからこそ味わえる幸福感
お世話は大変ですが、レオンとの暮らしは日々の刺激となり、私の感情処理の深さ(Depth of Processing)をフルに活かす体験になっています。HSPは、日常の出来事や感覚を単なる経験としてではなく、感情的価値や個人的な意味を伴う心的物語として処理しやすいため、レオンとのちょっとした触れ合いや仕草、目の輝きさえも、強い喜びや安心感として心に刻まれます。
敏感であるからこそ、痛みや困難も同時に感じつつ、感情の揺れや微細な幸福感を深く味わうことができます。心理学的に言えば、これらはHSPの「高度な情動共感能力(empathic sensitivity)」によって増幅され、日々の生活における小さな喜びが、心のしなやかさや自己肯定感を育み、感情を満たすひとときとして作用します。
こうして、レオンとの何気ない日常の瞬間ひとつひとつが、HSPにとってかけがえのない体験になっているのです。
